はじめに
Kバレエの舞台の宣伝で、目に飛び込んできた『死霊の恋』という衝撃的なタイトルに惹かれ、原作の内容が気になり図書館で借りてきました♡
作者ゴーティエについて
作者はピエール・ジュール・テオフィル・ゴーティエ (Pierre Jules Théophile Gautierr)
1811年にフランスで生まれた彼は、幻想的な作品をはじめたくさんの小説、著書を世に出しました
バレエ『ジゼル』の台本作者としても有名で、バレエにも造詣が深かったそう
『死霊の恋』登場人物
ロミュオー
幼いころから神様に仕えることを天職とし、勉強と修行に明け暮れる日々を送る青年
クラリモンド
美しい高級娼婦
セラピオン
ロミュオ―の監督役である年上の聖職者
物語の始まり
老いたロミュオーが、青春時代に体験した不思議な出来事を語って聞かせるというスタイルで物語は始まります
わしに恋をしたことがあるかとおっしゃるのですか、同門の衆。
それはないこともない
しかも、実に奇妙な、恐ろしい恋でしたよ。
あれを思い出すと、六十六歳になった今日でも、身の毛がよだつくらいですわい
岩波書店 『死霊の恋 ポンペイ夜話』より
叙品式の日
ロミュオーが幼少期から憧れ待ちわびていたカトリックの僧侶となる儀式の日
教会で、儀式の最中に、あろうことかロミュオ―は美しい女性に目が留まり、一目惚れしてしまいます
そのときの気持を申せば、眼のうろこがはがれたとでも言いましょうか、まるで盲目が急に見え出したようなものでした。
岩波書店 『死霊の恋 ポンペイ夜話』より
高鳴る気持ちを押し殺し、ロミュオ―は僧侶となりますが、彼女のことが忘れられません
新しい任務地へ
ある教区の新しい司祭に任じられたロミュオ―は、そこへ向かう途中で光り輝く金色の宮殿を目にします
セラピオンに尋ねると、そこはコンティニ公が、娼婦のクラリモンドに与えた昔の宮殿で”恐ろしいことが行われている”と聞かされます
再会の日〜終油を授ける相手は〜
任務を遂行しながら静かに暮らしていたロミュオ―のもとに、ある晩、男がやって来て、”非常に高貴な彼の女主人が、重病にかかっていて、臨終のきわに僧侶に逢いたがっている”と告げます
ロミュオ―は、終油をさずけるのに必要なものを持って、急いで向かいます
終油【しゅうゆ】とは
ローマカトリック教会の七つの秘蹟の一つ。臨終時の病人に平安と恵みを受けさせるため、その体に香油を塗る儀式
終油とは – Weblio辞書
館に到着すると、その女主人とは、まさにロミュオ―が恋焦がれていたクラリモンドでした
ロミュオ―が思わず接吻をすると、一瞬目を開きますが、再会を誓って彼女は亡くなります
我に返る
司祭館の小さな部屋で目を覚ましたロミュオ―
聞くと、3日間も眠り続けていたとのこと
ロミュオ―は、館での出来事は幻だったのか混乱します
近所に館の存在を知る人は誰もいませんでした
しかし、セラピオンだけはロミュオ―の様子に気が付いて忠告をします
きみはいま深淵のうえへ足を上げている。落ちこまぬよう充分注意したがよい
(中略)なにせ、人の噂によると、あの女が死んだのは、今度がはじめてではないのだからなあ。
岩波書店 『死霊の恋 ポンペイ夜話』より
ある晩の夢~再会~
ある晩ロミュオ―が眠りにつこうとする頃、カーテンの開く音が聞こえ眼の前に女の幽霊クラリモンドが立っていました
ロミュオ―は少しも恐ろしさを感じず、恋に堕ちていきます
わしには相手が悪魔だとは、どうしても信じられませんでした
あれがサタンの化身なら、ずいぶん上手に爪や角を隠したものです
岩波書店 『死霊の恋 ポンペイ夜話』より
それからは、昼間は司祭の仕事を行い、夜はクラリモンドと逢うという奇妙な二重生活が始まりました
クラリモンドの正体
ある日、自分が果物ナイフで指に深い傷を負った際、クラリモンドが野性的な行動を見せたことに疑いを持ったロミュオ―
寝たふりをして様子を見ていると、クラリモンドが自分の腕にピンを刺し、傷口から血を吸っていることに気づきました
セラピオンの忠告の意味がようやくわかりましたが、ロミュオ―の彼女に対する愛は変わりません
彼女には気づいていないふりをし、血を与え続けました
わしはたいして恐ろしいとも思いませんでした。(中略)
「さあ、飲みなさい。ぼくの愛がこの血といっしょにあなたの身内へ流れこむように!」
岩波書店 『死霊の恋 ポンペイ夜話』より
僧侶としての苦しみ
昼間は司祭として生きるロミュオ―は、自分の中に存在する、相反する人格に苦しみ始めます
その様子に気が付いたセラピオンは、ロミュオ―をクラリモンドの墓へ連れて行くと言います
君の恋の相手がどんな哀れな状態にあるか見せてあげよう。(中略)
汚い死骸のために、魂をなげうつような馬鹿な真似は、いくらきみでもしなくなるだろう。
岩波書店 『死霊の恋 ポンペイ夜話』より
永遠の別れ
クラリモンドの墓に着き、棺がセラピオンによってこじ開けられていきます
中には、クラリモンドが、唇の端に赤い血を滴らせて眠っています
怒り狂ったセラピオンが十字の印をきり、聖水を振りかけると、クラリモンドの身体は見るも無残な姿に砕け散ってしまいました
翌朝、クラリモンドはロミュオ―のもとに現れ、悲しみの気持ちを伝えて消えていき、その後現れることはありませんでした
その言葉は66歳の今もロミュオ―の心を苦しめています
今でもあの人が忘れられない。
魂の平和をあがなうには、あまりにも高価なものをなげうりました
神の愛もあの人の愛にかわるには足りません。
同門の衆、これがわしの若い頃の思い出話です。決して女を見てはなりませんぞ。いつでも地面を見つめて歩きなされ。
岩波書店 『死霊の恋 ポンペイ夜話』より
おわりに
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
あらすじとしてまとめると短いですが、小さな心の動きを繊細な言葉で表現していく、流れていく音楽のような美しい小説でした
夢と現実との境目がわからなくなる、虚ろな不思議な感覚も見事に書き表されていました
この美しいミステリーな世界を、Kバレエの舞台はどのように表現されているのか気になります
東京近郊にお住まいの方はぜひ情報チェックしてみてください(名古屋在住の私にとっては羨ましい限り、、涙。)
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